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月を見る夜

  はじめまして、今回の担当は照明チーフです。 テーマが「月の見える夜」ということなのですが、よくよく考えてみるとそれってほぼ毎日そうなんですよね。現にこの原稿を書いているのだって「月の見える夜」です。 天気が良ければ基本的に毎日「月の見える夜」はやってきます。けれども、不思議なことに「月の見える夜」に僕たちが実際に月を見るのかと言われれば決してそうとも限りません。中島みゆきさんの『地上の星』の一節に「地上にある星を誰も覚えていない 人は空ばかり見てる」というのがありますが、現代人は空さえも見なくなってしまったのかもしれませんね。 そんな風に普段は見向きもしていないくせに、(むしろ、見向きもしていないからこそなのかもしれませんが)ふと気まぐれに夜空を見上げた時に浮かんでいた月のことがひどく印象に残っているというようなこともあります。 僕の場合は、幼い頃、母方の祖父の葬式があった日の晩に眺めた月の様子が、母の実家の蚊取り線香の匂いと共に今だに脳裏に焼きついて離れません。 満月ではなかったと思います。三日月でもありませんでした。何の名前もついていない不完全な楕円形の月でした。でもだからこそ、当時の僕のもの寂しい気持ちとすごくあっていたんだと思います。 もしかしたら、そういう決まりきった形がなくて、一年のほとんどの間、未完成な状態であるところが月の1番の魅力なのかもしれません。そうであるからこそ、普段は気にも留めていないのに、ふと見上げた時に、その瞬間の自分の心情と重ね合わせて見ることができる、だから印象にのこる、みたいな?知らんけど。 最近の僕は月を眺めては故郷のことを思い出してばかりいます。「月の見える夜」は、周囲から自分を切り離して、1人の世界で物思いにふけるのにもうってつけなのかもしれませんね。 ああこの公演が終わったら、また実家に帰りたいな。

侘び寂びってなんですか

    満月が "full moon" なら新月は "null moon" だろうと思っていたら、普通に日本語と一緒で "new moon" と言うそうですね。小道具衣装担当です。     テーマは「月の見える夜」とのことですが、生憎私の部屋は北向きなので、普通に夜を過ごしていると月が見える瞬間ってない ん ですよね。ただ、旅先とかで夜遅くふらっと外に出て、白い月がぼやぁっと 光ってる のを見ると、わからないなりに侘び寂びってこんなも ん かなぁなんて気持ちになるものです。あとは真っ昼間なのに青白い月が 浮かんでる ときもありますね。小さい頃気になって理由を調べたような気がする ん ですが、もう忘れてしまいました。歳ですね。     話すことがないので受け売りの話をしようと思います。夏目漱石が「 I love you 」を「月が綺麗ですね」と訳した、という逸話は非常に有名ですが、実際にそういう文献があるわけではなく都市伝説的なものにすぎないそうです。ただ愛情表現のメタファーに月を使うのは日本だけではないようで、ジャズの名ナンバー「 Fly Me to the Moon 」は "In other words I love you" という表現で締められており、「私を月に連れてって」が「 愛してる 」の婉曲表現みたいに 使われてる ん だそうです。月の名前にとどまらず愛する二人が月を愛でるっていう構図も万国共通な ん だなぁ、と思う一方で、「綺麗ですね」と「連れてって」じゃだいぶ押しの強さが違う ん じゃないかとも思ってしまいます。これが侘び寂びってやつな ん ですかね。     最後に 書いてる 途中で見つけた 小ネタを一つだけ。 iPhone をお使いの方は、デフォルトで入っている「翻訳」というアプリに日本語と英語をセットして、「月が綺麗ですね」と入力してみてください。小粋な ん だか小癪な ん だかわかりませんね。小道具衣装担当でした。