劇団綺畸にもTheatre MERCURYにも憧れない


こんにちは、宣伝美術チーフのおいだです。
個人的に、作業場日誌は普段おもてに出ない座組の中の人の考えていることを知る良い機会だと思っているので、なるべく真面目に書くようにしています。面白くはないけれど、真摯に書いているということだけは間違いありません。ですから、タイトルでムッとされた方も是非最後まで読んでやってください。

宣伝美術を考えていく中で、自分が思考停止になっていると思う瞬間があります。正確に言うと、思考停止になっている自分を客観視する瞬間があります。
それは、固定観念に縛られているな、と思う時です。
「ふれろみたいなかっこよさがいいな」「ウェィヴラインみたいなアンニュイさがいい」「砂色の夢の大看板みたいな張り出し具合いいよね」「コタテどうしよう」など。そんなときふと思うのです。

そもそも我々は、なんのために宣伝物を作るのだろうか。

究極的には、宣伝物などいらないのかもしれません。少なくとも、なんのために作ったか考えることなく作った宣伝物に価値はなく、ただそこには「とりあえず期限までに何かを作った」という自己満足しかない。ではなぜ我々は、決まりきった形で宣伝物を作ろうとするのでしょう。

それは多分、楽だからでしょう。何も考えなくてよいからでしょう。
「仮チラ・本チラ・大看板・コタテ・ヒサシ・当日パンフレット」
これを、これまで見た芝居の宣伝物を引き合いに出しながらいい感じに作っていく。そうすれば楽なんです。思考停止でプランを切って、思考停止で塗って、思考停止で入稿して。最低限レイアウトを気にしなければならないが、そんなことは大した問題ではない。ただ既存の宣伝物の逆張りをして、作らなければならないものを作っていく。
そんな宣伝物に、なんの価値があるでしょうか。

今まではそれでよかったかもしれません。少なくとも、疑いはしなかった。でも、今回の公演は、新人公演です。当たり前ですが、自分たち新人しか責任を負う人間はいません。自分たちが適当な仕事をしていても先輩はもう助けてくれないし、それが「自分たちの作品」として評価されます。自分たち新人しかスタ会に参加しないし、自分たち新人しかノルマを払わないし、自分たち新人しか公演のために涙を流すことはできません。果たして我々は、駒場演劇の「伝統」に反しないために高いノルマを払って、適当な宣伝物を世に送り出すのでしょうか。


少し自分の話をさせてください。僕は多少デザインのスキルがあるので、ロゴやチラシやwebデザインをしてお金をいただく機会がしばしばあります。価格は場合によりますが1案件数万が相場という感じです。
そんな僕が、一応デザインで金をもらっている僕が、ノルマを払って宣伝物を作っています。いや、お金を払ってまで、宣伝物を作っています。

なぜ自分がお金を払ってまでデザインをするのか。たぶんその理由は、「好きなものを好きなように作る」ためではないかと思っています。他の劇団の(あるいは自分の劇団の過去の公演の)宣伝物ばかりを参考にしない、駒場演劇の伝統に縛られない、自分がしたい表現を、宣伝物を通して行う。それができなければ自分が宣伝美術セクションにいる意味はないし、セクションのチーフを張ることはできないと考えています。


呂布カルマというラッパーがいます。僕が最も尊敬するラッパーの一人です。「ヤングたかじん」というMCネームでフリースタイルラップバトルの決勝戦に出場した時に彼が残した、伝説的な一言があります。フリースタイルのフレーズを引用するのは野暮というものですが、お許しください。

「黒人にも犯罪者にも憧れない」

もともと日本のヒップホップカルチャーは、本場アメリカのカルチャーに強い影響を受けてきました。かのZeebraも2000年代には本気で黒人になりたかったと公言していますし、「ドラッグをやっていたり犯罪を犯したやつがイケてる」という文化が確かに存在します。
そんな中でカルマは、自分に向き合い、自分を貫き通すラッパーの一人です。黒人にも犯罪者にも憧れず、自分がなりたい自分であることを追求し、それを誇っています。


タイトルの「劇団綺畸にもTheatre MERCURYにも憧れない」というのは、「自分にしかできない表現を追求する」ことの覚悟を表したものです。まだこれを自分が十分に達成できていないと思っているからこその、自戒に近い一言です。

僕が制作した「まほろばを旋回」の本チラシには、芝居の世界観やいろいろなヒントを散りばめています。お手にとっていただける機会があれば、じっくり眺めてみてください。

駄文失礼いたしました。3/3,3/4に駒場小空間でお待ちしています。


宣伝美術チーフ おいだ





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